はじめに
事業計画は、どれだけ丁寧に作っても、ほぼ確実にズレます。
市場環境は変わり、競合は動き、顧客の行動も想定どおりには進みません。
問題は「ズレたこと」そのものではなく、「ズレたときにどう判断するか」にあります。
ここで判断を誤ると、事業は取り返しのつかない方向に進みます。
本記事では、事業計画がズレたときに、COOがどのような基準で「修正」「撤退」「継続」を判断すべきかを、実務視点で整理します。
事業計画がずれたときに起こる3つの感情
まず前提として、計画がズレた瞬間、組織には必ず感情が生まれます。
- まだ取り戻せるはずだという楽観
- どこかで認めたくないという抵抗
- 現場からの不安や焦り
この感情は自然なものですが、COOが感情に引きずられた意思決定をすると、ほぼ確実に判断は狂います。
COOの役割は、感情を無視することではなく、「感情が判断を歪めていないか」を常に自分に問い続けることです。
ここを曖昧にしたまま進むと、修正も撤退も常に遅れ続けます。
まず確認すべきは「ズレの種類」である
計画がズレたとき、COOはまず「どの種類のズレなのか」を冷静に切り分ける必要があります。
- 市場要因によるズレ
- 競合要因によるズレ
- 自社オペレーション要因によるズレ
- 仮説設定ミスによるズレ
市場縮小、規制変更、景気後退などは市場要因です。
価格破壊や新プレイヤーの参入は競合要因です。
一方で、人材不足や品質低下、営業不振は自社要因です。
さらに根深いのが、「課題設定そのものがズレていた」「顧客の本音を取り違えていた」といった仮説設定ミスです。
COOは、まずこの分類をしない限り、正しい打ち手を選ぶことはできません。
「修正」で済むズレの特徴
次に、「修正」で対処可能なズレの特徴から整理します。
- 想定より立ち上がりが遅れている
- 単価がやや下振れている
- 集客チャネルの反応が弱い
- オペレーションが詰まっている
これらは、事業の前提が根本から崩れているわけではなく、
「やり方」「順番」「スピード」の問題であるケースがほとんどです。
この場合、COOがやるべきことは、計画そのものを捨てることではなく、
KPI・オペレーション・人員配置・優先順位の再設計です。
修正で済む段階なのに、過剰に不安になって撤退判断をすると、
「勝てたはずの事業」を自ら手放すことになります。
「継続」で踏ん張るべきズレの特徴
一方で、数字が未達でも「継続」を選ぶべきケースもあります。
- 顧客の反応は明らかに良い
- 継続率やリピート率が高い
- 解約理由が機能や価格に集中している
- プロダクト改善で伸びる余地が大きい
この状態は、「売上はまだ小さいが、構造は間違っていない」可能性が高いです。
COOは、売上規模だけでなく、「顧客の行動データ」を必ず見る必要があります。
特に、
- 継続率
- 利用頻度
- 推奨(紹介)が発生しているか
これらは、事業の“芯”が正しいかどうかを見極める極めて重要な指標です。
このデータが良いにもかかわらず、短期の赤字だけで撤退すると、
将来の大きな成長機会を自ら潰すことになります。
「撤退」を視野に入れるべきズレのサイン
一方で、COOが最も勇気を持って向き合わなければならないのが「撤退判断」です。
次のような状態が重なってきた場合、撤退は現実的な選択肢になります。
- いくら改善しても継続率が上がらない
- 顧客が本気で困っていない
- 価格にしか競争力がない
- 仮説検証を回しても当たりが引けない
- 当初の撤退ラインを明確に超えた
特に重要なのは、「顧客が本気で困っていない」状態です。
課題が浅い市場では、どれだけ努力しても価格競争に巻き込まれ、利益は出ません。
COOは、「努力すれば勝てる事業」と「努力しても構造的に勝てない事業」を、
冷酷なほど切り分ける覚悟が必要です。
撤退判断を遅らせる最大の敵は「サンクコスト」である
撤退判断を最も難しくするのが、サンクコスト(埋没費用)の存在です。
- すでにこれだけ投資した
- ここまで時間をかけた
- ここまで社員が頑張った
これらはすべて、未来の意思決定には本来関係のない過去のコストです。
しかし人は、この過去に引きずられ、撤退すべきタイミングでも「もう少しだけ」と踏みとどまってしまいます。
COOの役割は、過去ではなく「これからのリターン」と「今後のリスク」だけを見て判断することです。
ここができないと、撤退は常に半年、一年と遅れ続け、損失は雪だるま式に膨らみます。
修正・継続・撤退を判断するためのCOOの3つの問い
COOが感情に流されずに判断するためには、自分に対して次の3つの問いを投げ続ける必要があります。
- この事業は、顧客の「深い課題」を本当に解いているか
- 競争優位は構造として成立しているか
- 時間をかければ勝てる可能性は残っているか
この3つの問いに、すべて「はい」と答えられるなら、赤字でも継続の価値はあります。
一方で、どれか一つでも明確に「いいえ」と答えざるを得ないなら、
その事業はすでに撤退フェーズに入っている可能性が高いです。
COOは、希望ではなく、構造とデータで答えを出さなければなりません。
撤退は「失敗」ではなく「経営の成果」である
多くの組織では、撤退は「失敗」として扱われます。
しかしCOOの立場では、これは正確な理解ではありません。
- 早く撤退できた
- 損失が最小で済んだ
- 人材と資金を次に回せた
これらはすべて、立派な経営成果です。
失敗とは、撤退すべき事業にしがみつき続け、
人もお金も疲弊させ、次の挑戦を奪うことです。
COOにとっての真の失敗とは「撤退できなかったこと」です。
まとめ
事業計画のズレは避けられません。
重要なのは、
- 修正で済むズレなのか
- 継続すべきズレなのか
- 撤退すべきズレなのか
この三つを冷静に切り分けられるかどうかです。
COOは、感情・サンクコスト・責任感という三重の重圧の中で、
それでも構造とデータだけを頼りに意思決定しなければならない立場です。
この判断ができるかどうかが、COOを「実務責任者」から「経営判断者」へ引き上げる最大の分水嶺になります。

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