はじめに
企業の不祥事や重大なトラブルは、ある日突然経営会議の場に現れるものではありません。
多くの場合その兆しはもっと早い段階ですでに現場に現れています。
小さなルール違反や軽い気の緩み忙しさを理由にした省略行動。
それらが積み重なった結果、あるタイミングで会社全体の問題として表面化するのが不祥事の現実です。
本記事では、不祥事がなぜ現場から始まるのかを整理したうえで、COOがどこを見てどうリスクマネジメントを設計すべきかを実務目線で解説します。
不祥事は悪意ではなく合理的な判断の積み重ねで起きる
不祥事というと特定の誰かが最初から悪意を持って動いた結果のように見られがちです。
しかし実際の現場では最初から不正をしようとしている人はほとんどいません。
- 納期が現実的ではない
- 人手が明らかに足りない
- 失敗が強く責められる
- 成果だけが過剰に評価される
こうした環境に置かれた現場はこのままでは回らないと判断します。
その結果として最初は小さな省略や抜け道が選ばれ、それが次第に常態化していきます。
不祥事は最初から不正として始まるのではなく、現場が生き延びるために選んだ合理的な判断の積み重ねとして起きるのが現実です。
不祥事の兆しは会議資料よりも現場に先に表れる
不祥事の前触れは会議資料にはほとんど現れません。
先に異変が出るのは、現場の数字や現場の空気です。
- 異常に増え続ける残業時間
- 不自然な売上の前倒し
- クレームの増加
- 現場からの報告量の減少
これらはすべて無理がかかり始めているサインです。
COOが見るべきなのは、表面上の業績の良し悪しだけではありません。
現場の負荷が急に増えていないか報告の質と量が変わっていないか。
こうした変化に早い段階で気付けるかどうかが、事態を深刻化させない分かれ目になります。
ルールより先に壊れるのは現場の心理的安全性
多くの不祥事では最初に壊れるのは現場の心理的安全性です。
- ミスを報告すると責められる
- 問題を指摘すると空気が悪くなる
- 正論よりも波風を立てないことが優先される
この状態になると、現場は正しい判断よりも無難な選択を優先するようになります。
その結果として、見て見ぬふり、先送り、隠蔽といった行動が連鎖的に起こります。
COOが本当に整備すべきなのは規程の数ではなく現場が問題を問題として口に出せる空気です。
COOが最初に疑うべきは人ではなく構造
不祥事が発覚するとどうしても特定の人物に責任を集中させたくなります。
しかしCOOが最初に向き合うべきなのは、個人の資質ではなく問題が生まれる構造です。
- 達成不可能なKPI
- 過剰な成果主義
- 責任と権限のねじれ
- 無理なスケジュール設計
こうした構造がある限り、誰が担当しても同じ問題は必ず再発します。
COOの役割は、問題を起こした人を探すことではなく問題が再発しない構造に作り替えることです。
リスクマネジメントとは問題を消すことではない
多くの組織ではリスクマネジメントを問題が起きないようにする仕組みだと誤解しています。
しかし現実には問題の発生を完全にゼロにすることはできません。
COOにとってのリスクマネジメントとは、
問題が起きることを前提に、できるだけ早く気付き小さいうちに止められる状態を作ることです。
- 異変が経営まで届くルートがあるか
- 報告が上がってきたときにすぐ動ける体制があるか
- 問題を上げた人が不利にならない仕組みがあるか
これらが整っていない組織では問題は必ず深刻化してから表面化します。
COOが設計すべき実務としてのリスクマネジメント
COOが主導して整備すべきリスクマネジメントは立派な制度そのものではありません。
現場が実際に使える次のような仕組みです。
- 気軽に相談できる報告ルート
- 数字と現場の感覚を結びつけるレビューの場
- 是正をすぐに決められる意思決定の速さ
形だけの通報窓口や規程があっても、現場が使わなければ意味はありません。
COOの仕事は制度を作ることではなく、現場がそれを使いたくなる状態を作ることにあります。
COOが見落としやすい危険な兆候
実務の中で、COOが見落としやすい危険な兆候もいくつかあります。
- 数字だけは順調に見えている
- 現場の離職が静かに進んでいる
- 問題の報告が極端に少ない
- 現場責任者が過剰に抱え込んでいる
これらはすべて現場の限界が近いサインです。
業績が良く見えるときほど、COOは一度立ち止まり、現場の負荷と無理の度合いを確認する必要があります。
まとめ
不祥事はある日突然悪意によって生まれるものではありません。
現場が無理をし、声を上げられなくなり小さな省略が積み重なった結果として静かに育っていくものです。
COOの役割は、不正を見つけて罰することではなくそもそも不正が育たない構造を作ることにあります。
数字と空気の両方に目を配り、現場の合理的な判断が破滅に向かわないように設計すること。
それこそが、COOに求められる実務としてのリスクマネジメントです。

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