はじめに
事業計画には、「社内用」と「社外用」という二つの顔があります。
社内用は現場を動かすための設計図であり、社外用は投資家や銀行に会社の将来性を理解してもらうための説明資料です。
この二つは似ているようで、実務上はまったく別の性質を持っています。
COOにとって難しいのは、この二つを「同じ数字」「同じ文章」で作ろうとしてしまう瞬間です。
本記事では、投資家・銀行向けに出す事業計画において、COOがどこを盛り、どこを盛ってはいけないのか、そのリアルな線引きを整理します。
社外向け事業計画の最大の目的は「安心させること」
まず前提として、投資家や銀行が事業計画を見るときの最大の関心は、
「この会社は本当に大丈夫なのか」「お金を返せるのか」「成長し続けられるのか」という一点に集約されます。
- 夢があるか
- 現実的に回りそうか
- 最悪のときにどうなるのか
社内用の事業計画が「どう動かすか」を重視するのに対し、
社外用の事業計画は「どれだけ不安なく見えるか」が極めて重要になります。
COOは、この目的の違いをまず頭の中で明確に切り分けておく必要があります。
投資家・銀行が本気で見ているポイント
投資家や銀行は、すべてのスライドを同じ熱量で見ているわけではありません。
実務では、次のポイントが特に集中的に見られます。
- 事業の成長性
- 利益構造の分かりやすさ
- キャッシュフローの安定性
- 最悪ケースへの耐性
まず成長性です。
市場がどれだけ大きいのか、成長率はどの程度か、その中で自社はどのポジションを取ろうとしているのか。
ここが小さく見えると、どれだけ立派な戦略があっても評価は伸びません。
次に利益構造の分かりやすさです。
どこで儲かり、どこでコストがかかるのかが一目で分かる構造になっているかどうか。
これが分かりにくい会社は、リスクが高く見積もられます。
「盛っていいところ」と「盛ってはいけないところ」の違い
社外向け事業計画において、COOが最も神経を使うべきなのが、この線引きです。
- 盛っていいところ
- 市場規模
- 成長余地
- 将来のオプション
- 盛ってはいけないところ
- 足元の実績
- キャッシュフロー
- 固定費構造
まず、市場規模や成長余地は、ある程度「大きく語る」ことは許容されます。
TAM・SAM・SOMのようなフレームで市場の広がりを示し、「この会社はこの世界を取りにいく」と語るのは自然なことです。
ここはむしろ、控えめすぎると魅力が伝わりません。
一方で、足元の実績、キャッシュフロー、固定費構造は絶対に盛ってはいけません。
ここを盛った瞬間に、あとから必ず「嘘」をつくことになります。
COOにとっての致命傷は、「数字の夢」よりも「数字への不信感」です。
「希望的観測」と「戦略的ストーリー」は違う
社外向け事業計画では、どうしても将来の成長を強く見せたくなります。
しかしCOOが意識しなければならないのは、「希望的観測」と「戦略的ストーリー」はまったく別物だという点です。
- 希望的観測:
「たぶん伸びる」「うまくいけば行ける」 - 戦略的ストーリー:
「この構造があるから、この順番で伸びる」
投資家や銀行は、後者しか信用しません。
COOは、「なぜその数字になるのか」「その数字に至るまでの構造は何か」を、必ず言語化して説明できる必要があります。
数字だけを大きく見せても、ストーリーが伴っていなければ、評価は一切上がりません。
銀行向け事業計画は「守り」が8割
投資家向けと銀行向けでは、事業計画の見せ方は大きく変えるべきです。
特に銀行は、ほぼ例外なく「守り」の目線で計画を見ます。
- 返済原資はどこか
- 最悪ケースでも返せるか
- 固定費はどれくらいか
- キャッシュはいつ枯れるのか
銀行は基本的に「失敗したとき」を想定して融資判断をします。
COOは、ここで夢を語りすぎると一気に信頼を失います。
銀行向け事業計画では、「うまくいったら」よりも「うまくいかなかったときでもこう守れる」という設計の方が、圧倒的に評価されます。
投資家向け事業計画は「攻め」と「再現性」のセット
一方で投資家向け事業計画では、攻めのストーリーが不可欠です。
ただし、攻めだけでは不十分で、必ず「再現性」とセットで語る必要があります。
- なぜスケールするのか
- どこまで人で回すのか
- どこから仕組みに変わるのか
この説明ができないと、
「最初はうまくいったが、スケールしたら崩れる会社」だと見なされます。
COOが語るべきは、「一部の天才がやっている話」ではなく、「誰がやっても再現できる構造」の話です。
社外向けに出す数字と、社内で使う数字は分けていい
真面目なCOOほど、「社内と社外で違う数字を出すのはよくないのではないか」と悩みがちです。
しかし実務の現実では、この二つは分けて考えた方がうまくいくケースの方が圧倒的に多いです。
- 社内用:現実ベース、下振れも織り込む
- 社外用:戦略的に伸ばす未来を描く
この二つを同じにしようとすると、
社内では夢物語になり、社外では弱気な計画になります。
COOが守るべきは、「数字の一貫性」ではなく、「説明としての一貫性」です。
なぜ社外ではこの数字なのか、その理由さえ説明できれば、意図的な使い分けは問題になりません。
事業計画は「信頼残高」を積み上げる装置でもある
投資家や銀行は、1回の事業計画だけで会社を評価しているわけではありません。
複数回の計画、複数年の実績、複数回の修正を通じて「この会社は約束を守るかどうか」を見ています。
- 言った数字にどれだけ近づけたか
- ズレたときにどう説明したか
- 悪いときにごまかさなかったか
COOにとって事業計画とは、単なる調達や融資の資料ではなく、
長期的な信頼残高を積み上げるための履歴書でもあります。
一度でも大きな嘘をつくと、この信頼残高は一瞬で消えます。
「盛る」の正解は「幅を持たせる」こと
結論として、COOが取るべき「盛り方」の正解は、
数字を無理やり上に引き上げることではなく、「幅を持たせる」ことです。
- 楽観ケース
- 現実ケース
- 悲観ケース
この三つをきちんと提示し、
「この幅の中で会社はこう動く」「このラインでこう判断する」と説明できる会社ほど、
投資家や銀行からの信頼は厚くなります。
COOの仕事は、夢を語ることではなく、「夢と現実を同時に管理すること」です。
まとめ
社外向け事業計画において、COOが盛っていいのは「市場」「成長余地」「将来の選択肢」です。
盛ってはいけないのは、「足元の実績」「キャッシュフロー」「固定費構造」です。
銀行向けは守り、投資家向けは攻めと再現性のセット。
社内用と社外用の数字は、目的が違う以上、意図的に使い分けて構いません。
事業計画とは、調達資料であると同時に、COO自身の信頼を積み上げるための装置でもあります。
ここを誤魔化さずに積み上げられるかどうかが、長く戦えるCOOと消えていくCOOの分かれ道になります。

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