はじめに
事業計画は、経営にとって最重要テーマでありながら、実務では最もズレやすい分野です。
戦略との違いが曖昧なまま売上とコストの数字だけを並べて事業計画と呼んでいる会社も多く見られます。
特にCOOは、事業計画を作る側であると同時に、それを現場で動かし切る責任者でもあります。
つまりCOOにとって事業計画は、単なる経営資料ではなく、日々の意思決定そのものを規定する存在です。
本記事では、事業計画の本質、戦略との違い、そしてCOOが実務でどう向き合うべきかを構造的に整理します。
事業計画とは何か
事業計画とは、会社がどのように売上と利益を生み出しどのような成長曲線を描いていくのかを、数字と行動に分解した設計図です。
単なる売上予測や予算表ではなく、戦略・組織・オペレーション・人材・KPIが一体となって初めて、実務で使える事業計画になります。
多くの現場では、次のような要素が含まれていない事業計画が少なくありません。
- 市場と競争環境
- 売上成長のシナリオ
- コスト構造と利益モデル
- 組織と人員計画
- KPI設計
- 実行スケジュール
これらは単なるチェック項目ではなく、それぞれが現場の行動を直接左右する重要要素です。
たとえば市場と競争環境が曖昧なままでは売上シナリオの前提条件そのものが崩れ、組織と人員計画がないまま売上目標だけを置けば現場は必ず疲弊します。
COOにとって、事業計画とは数字の帳尻合わせではなく、組織と現場を動かすための総合設計書であることが前提になります。
事業計画と戦略の違い
事業計画と戦略は混同されやすい概念ですが、役割は明確に異なります。
- 戦略は、どこで、誰に、どのような価値を提供し、どう勝つかを決めるもの
- 事業計画は、その戦略を実際の数字・組織・行動・KPIに落とし込むもの
戦略は方向性を示す「意思決定の軸」です。
一方で事業計画は、その方向に向かって「実際に人とお金と時間をどう動かすか」を定義します。
COOの実務では、この二つがズレているケースに日常的に直面します。
たとえば「高付加価値で勝つ」という戦略を掲げているのに、KPIは件数主義で現場はひたすら数を追わされているというケースです。
この状態では戦略と事業計画が分離し、現場の行動は戦略と無関係な方向に最適化されてしまいます。
COOの役割は、戦略と事業計画の間に生じるこうしたズレを現場レベルで修正し続けることにあります。
なぜ多くの会社で事業計画が機能しないのか
事業計画が機能しなくなる理由には明確な共通パターンがあります。
- 経営企画や管理部門だけで作られている
- 現場の工数やオペレーションが反映されていない
- 戦略とKPIが噛み合っていない
- 組織設計や人員計画が後回しになっている
- 作ったあと誰も見ない
これらはすべて、実務の現場で頻繁に見かける失敗パターンです。
事業計画が経営会議用の資料で止まり、現場の行動に影響を与えなくなった瞬間その計画は事実上「死んだ」と言っても過言ではありません。
COOの仕事は、この状態に陥る前に計画を現場に結びつけ続けることにあります。
COOにとっての事業計画の意味
COOにとって事業計画は、単なる経営管理ツールではありません。
日々の意思決定、優先順位、組織設計、プロジェクト判断のすべてに影響を与える「行動の基準」そのものです。
COOの立場での意味は、大きく次の三つに整理できます。
- 組織とオペレーションを設計する基準
- 優先順位を決めるための判断軸
- 部門横断で組織を動かすための共通言語
まず、組織とオペレーションを設計する基準という点についてです。
どの部署に何人配置するのか、どこに業務負荷が集中するのかどのプロセスがボトルネックになるのか。
これらはすべて事業計画から逆算して設計されます。事業計画が曖昧であれば、組織設計は必ず歪み後から修正コストが発生します。
次に、優先順位を決めるための判断軸という点です。
新規事業に人を割くのか、既存事業の改善に全力を注ぐのか、採用を先行させるのか、投資を抑えるのか。
こうした判断を事業計画との整合性なしに行うと、組織は短期間で迷走します。
最後に、部門横断で組織を動かすための共通言語という意味です。
営業・マーケ・CS・プロダクト・管理部門は、それぞれ異なるロジックで動いています。
事業計画は、それらを一本のストーリーにまとめ、COOが翻訳装置として機能するための共通言語になります。
事業計画に必ず含めるべき構成要素
COO視点で見たとき、少なくとも次の要素が一体で設計されていなければ、事業計画は実務で機能しません。
- 市場と競争環境
- 売上成長のシナリオ
- コスト構造と利益モデル
- 組織と人員計画
- KPI設計
- 実行スケジュール
市場と競争環境
市場規模、競合の強み、参入障壁、自社の勝ち筋がここで定義されます。
COOはこの前提がズレていないかを最初に確認しないと、後工程の数字がすべて幻想になります。
売上成長のシナリオ
どのプロダクトで、どの顧客に、どのチャネルで売るのかを言語化します。
前年比〇%成長という置き方だけでは、現場はまったく動けません。
COOはこのシナリオが現場の行動レベルに落とせているかを必ず検証します。
コスト構造と利益モデル
COOが特に重視すべき領域です。
人件費、外注費、広告費、原価、固定費と変動費のバランスがどう変化するのか。
売上だけでなくコストがどのように膨らむのかまで見えて初めて、実行可能な計画になります。
組織と人員計画は、事業計画の実行力を左右する最重要項目です。
いつ、どの部署に、どんなスキルを持つ人材を、何人配置するのか。
ここが不明確な事業計画は、実行フェーズで必ず破綻します。
KPI設計
戦略と現場をつなぐ接着剤です。
売上、粗利、CVR、LTV、解約率、NWCなど、追うべき数字が明確でなければ現場は判断できません。
COOはそれらのKPIが戦略と本当に連動しているかを必ずチェックする必要があります。
最後に実行スケジュール
月次、四半期、年間でどのタイミングで何をやるのかが決まっていなければ、計画は現場で再現できません。
COOの現場感覚では、このスケジュールこそが事業計画の命綱になります。
COOが事業計画で必ずチェックすべき視点
COOが事業計画を見るとき、最低限次の三点は必ず確認しなければなりません。
- 数字は現場で再現可能か
- 戦略とKPIが本当につながっているか
- 組織とプロセスが未整備のまま走らないか
まず数字の再現性についてです。
誰が、どの業務で、その売上やKPIを作るのかが説明できなければ、その計画は机上の空論です。
現場の工数、人員、処理能力とズレた数字は、COOが最初に是正すべきポイントになります。
次に戦略とKPIの接続です。
差別化戦略を掲げていても、KPIが単純な件数主義になっていれば、現場はいつの間にか量の勝負に引きずられます。
COOは戦略とKPIの間に生じるこうした歪みを見抜き、修正し続ける役割を担います。
最後に組織とプロセスの整備状況です。
新しい業務が増えるたびに現場へ丸投げされていないか、権限と責任が曖昧になっていないか。
ここが崩れると、短期間で組織は疲弊します。
事業計画はCOOの武器であり、責任でもある
事業計画はCFOや経営企画の仕事だと思われがちですが、実務でその成否を最も強く問われるのはCOOであるケースがほとんどです。
数字が未達になれば、COOの実行力が問われます。
組織が崩れれば、COOの設計力が問われます。
プロジェクトが失敗すれば、COOの推進力が問われます。
だからこそCOOは、事業計画を後から検証する資料としてではなく、
自分が責任を持って動かすための武器として扱わなければなりません。
まとめ
事業計画とは、戦略を数字と行動に変換し、現場で再現するための経営設計図です。
戦略だけでは会社は動かず、数字だけでも組織は動きません。
その両方を現場でつなぎ、実行に変える役割を担うのがCOOです。
COOにとって事業計画は、単なる資料ではなく、日々の意思決定と組織運営を支配する中核ツールだと言えます。

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